Spotifyで2億回以上再生されているUKの20代のプロのDTMシンガーCavetown。彼の大半の楽曲は自室でDTMで作ったものばかり。この記事では、プロのシンガーである彼が所有するDTM機材一覧と、彼が思う「音楽を作るのに大事なこと」についてご紹介します。これからDTMを始める方のご参考になれば幸いです。
Cavetown とは
Cavetownは98年生まれのイギリスのシンガー。14歳でバンドキャンプに初作品をアップして以来、YouTubeやSNSのライブ配信を通じて地道にファンを増やしていきました。2015年のデビューシングル”This is Home”は現在YouTubeで3,600万回以上の再生、Spotifyで4,200万回以上再生されています。
以下、タイトルで記載した「1億円」の試算方法です。
- Spotifyの人気曲10曲の再生数:約2億回 × 0.4円
- YouTubeの動画数:210個 × 15万円(彼の1動画あたりの広告単価※)
>> 約8,000万円
>> 3,000万円以上
※参考:https://influencermarketinghub.com/youtube-money-calculator/
このように、2つのプラットフォームで少なく見積もっても売上1億円以上。さらにバンドキャンプやアップルミュージックでの売上を考慮すると、総額は倍近いかもしれません。もしかしたらその全売上に加え、自主制作であることを踏まえると、実は利益が1億円近いのかも。
1億円を稼ぐDTM機材は10万円くらい
Cavetownは2018年にYouTubeで自身のスタジオを公開しています。スタジオといっても彼の寝室です。そこで使われている機材をすべて公開しているのですが、どれも古くて安いものばかり。
楽器類(これらもそこまで高くはない)を除いて、レコーディングに必要なDTM機材に絞って現在の価格で購入すると仮定して調べたところ、PC込みで約10万円くらいで収まってしまうような内容でした。
機材名 | カテゴリ | 定価(※) | 現在の価格(※) |
Roland Duo-Capture Ex Audio Interface | オーディオインターフェース | ¥19,800 | ¥9,800 |
Alesis V25 MIDI Keyboard | MIDIキーボード | ¥11,852 | ¥9,980 |
Edirol MA-10D Monitors | モニタースピーカー | ¥16,500 | ¥4,000 |
Audio Technica AT 2020+ USB Mic | マイク | ¥10,780 | ¥10,780 |
Technics RP-F880 Stereo Headphones | ヘッドホン | 不明 | ¥6,000相当 |
2013 Macbook Pro (Retina, 13-inch) | PC | ¥134,800 | ¥45,000 |
Logic Pro X | DAW | ¥24,000 | ¥24,000 |
合計 | ¥109,650 |
※価格は2019年12月2日調査時点のものです。参考程度にとらえていただければと思います。
以下、実際の機材と簡単な説明です。
パソコン: 2013 Macbook Pro (Retina, 13-inch)
現在の価格:45,000円前後(中古の場合)
発売日:2013年
RAMや容量などの詳細スペックまではわかりませんが、一昔前のマックブックですね。「昔のマックだから良い」というわけではないので、買ったものをそのまま使っているのでしょう。
下記は最新のMacbook Proの13インチです。
Macbookの最新型がなぜ音楽制作に優れているかは、下記で詳しく記載してますので、よろしければ。
オーディオインターフェース: Roland Duo-Capture Ex Audio Interface
現在の価格:9,800円相当(中古の場合)
発売日:2013年
いわゆる録音2チャンネル、再生2チャンネルの標準的なオーディオインターフェースですね。サンプリングレートは最大48kHz、ダイナミックレンジが99dBと、今なら半額で倍以上のスペックのオーディオインターフェースが定価で買えます。
下記記事では、海外で高評価で、安く高音質なオーディオインターフェースをまとめていますよ。
ヘッドホン: Technics RP-F880 Stereo Headphones
現在の価格:6,000円くらい?
発売日:2005年
テクニクスがDJのモニター用に発売した半開放型のヘッドホン。日本では入手できませんが、特別音楽制作に長けているようには思えません。
Cavetownは「音が凄く良いよ。今なら超安く手に入るよ」と言っています。彼はこれでミキシングからマスタリングまで行っているそうです。凄い…。
日本ではほぼ入手不可なので、最も一般的なモニターヘッドホンを参考までに載せておきます。
オーディオテクニカが、ヘッドホンの王様と言われる所以は下記に詳しくまとめています。
MIDIキーボード: Alesis V25 MIDI Keyboard
現在の価格:10,000円(生産中止)
発売日:2014年
2オクターブ分の鍵盤と8つのドラムパッドつきのコンパクトなMIDIインターフェースですね。現在も中古で買えますが、4オクターブ分の鍵盤になっているアップデート版が同等の価格で購入できます。
モニタースピーカー: Edirol MA-10D Monitors
現在の価格:7000円(中古の場合)
発売日:2001年
ローランドが2001年に発売したパソコンからの出力を考慮して発売したモニター用スピーカー。現在は販売停止商品で、メルカリなら4,000円くらいで入手できます。正直なところ、出力はRCAピンがメインですしミュージシャンの定番機材ではないと思います。
Cavetownも「お父さんが買ってくれたんだ。このモニター全然良くないし、機能もよくわかってない」と言ってます笑。それでも音楽は作れちゃうんですね。
彼のようなホームレコーディング用として、評価が高い2020年代の定番モニタースピーカーは下記にまとめています。
マイク: Audio Technica AT 2020+ USB Mic
現在の価格:10,000円
発売日:2007年
現在も販売中の単一指向性のコンデンサーマイク。廉価版ながらも安定した評価を集めています。サウンドハウスだと1万円で購入できますね。唯一迷いなく買える機材です笑
DAWソフト: Logic Pro X
現在の価格:24,000円(税込)
発売日:
これは説明不要。代表的なDAWソフトウェアのロジックです。ロジックをDAWとして選んだ理由は、ガレージバンドで作曲を始めたから、そしてお父さんがクリスマスプレゼントしてくれたからだそう。
Cavetownが考える機材や音楽制作で大事なことについて
DTM・音楽制作で機材がいちばん重要じゃない
動画内で、彼は音楽を作ることと機材について以下のように語っています。
スタジオといっても、とてもシンプルだよ。僕は機材をたくさん持ってないから。音楽を作るのに必要なものを最小限にとどめている感じかな。それで十分だよ。
良い音楽を作るのに高価で大量の機材なんて必要ない。これでも多いくらい。良い曲はスマホのボイスメモ、ウインドウズのムービーメーカーでも作れるはずだから。
だからみんな「自分で音楽なんて作れない」とか「機材を買うのに大金なんて持ってない」なんて思わなくて良いんだよ。
音楽一家という環境がもたらしたもの
実は、cavetownの家族は音楽一家です。父はケンブリッジ大学の音楽監督、母はプロのフルート奏者、祖父はカントリー歌手でした。cavetownは常に音楽に囲まれ、8歳の頃に父からアコースティックギターを教えてもらったそうです。
「なんだ、結局才能と環境じゃん!」という話をしたいのではなく、驚いたのはそんな音楽一家の環境で、音楽的な権威のある父が購入した機材が、EDIROLのスピーカーなどとても安いものだったという点。機材が音楽制作に必ずしも重要でないことを証明しているようでもあります。
では、音楽一家であることが彼にどういった影響を与えたのでしょうか。Cavetownはそのメリットを以下のように語っています。
両親が音楽的なキャリアを持っていたから、成長と共に音楽や創造性も強く育まれたんだ。両親は、僕に楽器を学んで想像力を探求することを勧めてくれていたんだと思う。これは本当に感謝すべきことだし、これが自分の特権だと思う。
多くの子供の親は音楽を人生のキャリアとして扱ってくれない中、僕の両親はやりたいことをいつもサポートしてくれてるから、とてもラッキーだと思うよ。
引用:https://www.coolaccidents.com/news/cavetown-interview
想像力の探求を促すこと、音楽はキャリアになると理解すること。Cavetownの両親は、高価な機材購入などの金銭的な援助よりもこの2点で彼をサポートしました。いずれもお金には替えられない価値でもありますね。
CavetownはLogic Proの使い方を学校で学んだ
Cavetownは、16歳の頃に父からプレゼントされたロジックの使い方を、シックス・フォーム・カレッジ(イギリスで16歳~18歳の期間に通う、大学入試準備のための公立学校や職業学校)で学んだそうです。
彼が2019年6月に公開した最新のスタジオ動画(※)では、Logic Proの使い方を観ることができます。
録音した素材に対するイコライザや音量処理、コンプレッサーやリバーブの設定などが記録されています。感覚的な言葉で説明しながらも「こういう音にしたいからこういう処理をする」という明確な意思が伝わってきます。
音楽の権威のある父がロジックをプレゼントしたこと、学校で使い方を学んだことを考慮すると、音楽制作で大事なことって、優れた高価な機材を使うのではなくて、最終的に自分が想像した音に近づける音響処理ができることなんだと改めて思いました。
「あれがないと良い音にならないんじゃないのかな…」
「もっと良い音楽を作るには新しいものが必要かも…」
新しい機材や楽器を眺めていると、ついこうした気持ちになりがちですが、想像力とそれを実現させるためのスキルを覚えることが何よりも先ですよね。
※この最新の動画では彼は新しい機材に買い替えていますが、大半の楽曲は2018年の動画公開前に発表されたものです。
ソーシャルメディアの使い方を理解すること
Cavetownが多くのファンを作った背景にはソーシャルメディアの存在があります。彼は直感的にソーシャルメディアの価値を理解していたため、YouTubeなどで毎週ライブストリームを通じて視聴者と交流し、ファン数を増やしていきました。
ストリーミングで彼は常に音楽を演奏しているわけではなく、ファンとチャットをしたり質問に答えたり、いわゆる一般的なユーチューバーと同じようなことをしています。
ソーシャルメディアを直感的に理解しているとはつまり、ストリーミングが音楽消費の主流になり、レコードレーベルの存在意義がなくなりつつある今、どうやってファンと繋がるか、ひいてはプロモーションをするかを理解していることなんだろうなと思います。
まとめ
若干20歳のシンガーCavetownを通じて、DTM・音楽制作に重要なこと、必要な機材やスキルについてご紹介しました。
まとめるならば、以下のような感じですかね。
- 機材は必要最低限で大丈夫
- 大事なのは想像力(楽器を学んだりして得る力)
- 大事なのは想像力を再現できるDTMスキル
クライアントワークやハイファイな音楽を作らなければいけない場合は高価な機材が必要でしょうしもちろん例外もあるはず。ですが自分の音楽を作る場合、自分の想像する音にどうすれば近づけるかを理解することが一番重要なのだと思います。
音楽を作るモチベーションが高まる内容で、調べて本当に良かったです。そして読んだ方にも何か良い気づきがあればうれしいです。
著者もDTMでサブスク配信によって収入を得ています。まだまだお小遣い稼ぎ程度ですが、長期的な視点で挑むつもりです。
Photo by Namroud Gorguis on Unsplash